過渡現象の解析方法~なぜラプラス変換を使うのか~

制御工学

本記事では過渡現象の解析にしばしば登場するラプラス変換の基本とラプラス変換を使用することのメリットについて、実際の回路解析を例にとり、ラプラス変換を用いた場合、用いない場合の解析過程の比較を交えつつ解説しています。

ラプラス変換とは

まず、定義からですが、時間変化する関数f(t)に対して、以下の式のF(s)をf(t)のラプラス変換といいます。

\[F(s) = \int_0^{\infty} e^{-st} f(t) dt \]


ラプラス変換で扱うf(t)はt≧0で定義された時間関数であり、t<0ではf(t)=0となります。
ここでsはラプラス変数やラプラス演算子と呼ばれる複素数であり、角周波数ω、包絡定数σを用いて、

\[s=σ+jω\]

と表されます。
また、F(t)をF(s)の逆ラプラス変換といいます。以下の変換式により計算できます。

\[f(t) = \frac{1}{2πj} \int_{C-j\infty}^{C+j\infty} e^{ts} F(s) ds \]

ラプラス変換は時間領域⇒複素平面への写像、逆ラプラス変換は複素平面⇒時間領域への写像を示しています。

なお、工学の分野で使用する場合には都度ラプラス変換を行うわけではなく、以下に示すラプラス変換表を用いて変換を行っていきます。下表には代表的なラプラス変換/逆ラプラス変換(F(s)とf(t)の組み合わせ)を示しています。

\(F(s)\)\(f(t)\)
\(1\)\(δ(t)\\デルタ関数\)
\(\frac{1}{s}\)\(u(t)\\ 単位ステップ関数\)
\(\frac{1}{s^2}\)\(t\)
\(\frac{n!}{s^{n+1}}\\※nは正の整数\)\(t^n\)
\(\frac{1}{s+a}\)\(e^{-at}\)
\(\frac{1}{{s+a}^2}\)\(t e^{-at}\)
\(\frac{ω}{s^2+ω^2}\)\(sin ωt\)
\(\frac{s}{s^2+ω^2}\)\(cos ωt\)
\(\frac{ω}{{(s+a)}^2+ω^2}\)\( e^{-at} sin ωt\)
\(\frac{s+a}{{(s+a)}^2+ω^2}\)\( e^{-at} cos ωt\)
代表的なラプラス変換/逆ラプラス変換

また、関数f(t)の微分、積分のラプラス変換も多用されるため、以下に示します。
※L{}・・・は{}内をラプラス変換することを示します。

\[L\{\frac{d}{dt}f(t)\} = sF(s)\]

\[L\{ \int_0^{t} f(t) dt \} = \frac{1}{s}F(s)\]

なぜラプラス変換を用いるのか

定義を説明したところで、なぜラプラス変換を過渡現象の解析に用いるのかを解説します。
以前の過渡現象について扱った記事ではRC回路の応答を机上計算で(ラプラス変換を使わずに)求めていましたが、その手順が以下になります。
※なお、この手法は一般的に初等的解法と呼ばれます。

【初等的解法の手順】
時間応答を机上計算では電気回路から微分方程式を立式

定常解を求める

過渡解を求める

一般解を求める


このように多数の手順を追って、最終的な一般解を計算していました。特に「過渡解を求める」の段階では、微分方程式を解く必要があり、上記の記事の例では比較的シンプル(1回微分しか含まれていない)でしたが、2回、3回。。。の微分が含まれる方程式を対象とする場合、机上計算が困難になります。
これに対して、ラプラス変換を用いることで時間領域の関数を複素領域(周波数領域とも呼ばれます)の関数に置き換え、代数計算に帰着させることができます。
つまり複雑な微分方程式であっても代数方程式に置き換えて計算することができる点が過渡現象解析にラプラス変換が用いられる理由となります。
次章ではこのことを具体的な回路解析を例にとって、実際に計算も交えて解説していきます。

解法の比較(RL回路)

下図のRL回路を対象に初等的解法とラプラス変換による解法の比較をしてみましょう。

解析対象のRL回路

初等的解法

まず、初等的解法について示します。上手の回路図から回路方程式は以下のようになります。

\[Vs = RI + L \frac{dI}{dt} ・・・(☆)\]

□定常解の導出
十分に時間が経った場合、上式の第二項(微分項)=0となるため、以下の式が成り立ちます。

\[Vs = RI \]

よって定常解Isは

\[Is = \frac{Vs}{R}\]

□過渡解
過渡解は以下の微分方程式を解くことにより求めることができます。

\[0 = RI + L \frac{dI}{dt} \]

よって過渡解Itは

\[It =Ae^{-\frac{R}{L}t} \] Aは定数

□一般解
一般解は定常解+過渡解であるため、一般解Iは

\[I =Is + It =\frac{Vs}{R} + Ae^{-\frac{R}{L}t} \]

なお、定数Aは初期条件から求めることができます。つまり、時刻t=0sでI=0であるから、これを上式に代入すると、

\[0 =\frac{Vs}{R} + Ae^{-\frac{R}{L}*0} ⇔ 0 = \frac{Vs}{R} + A\\ ⇔ A = -\frac{Vs}{R}\]

よって、このAを代入した形の一般解は

\(I =\frac{Vs}{R} – \frac{Vs}{R} e^{-\frac{R}{L}t} = \frac{Vs}{R}(1 -e^{-\frac{R}{L}t}) \]

以上が初等的解法による計算手順になります。

ラプラス変換による解法

次にラプラス変換による解法を示します。回路方程式(☆)をラプラス変換すると以下になります。

\[\frac{Vs}{s} = RI + sL I ⇔ I = \frac{Vs}{s(RI + sL)} \]

逆ラプラス変換を行うため、上式を部分分数分解していきます。

\[I = \frac{Vs}{s(RI + sL)} = Vs(\frac{1/L}{s} – \frac{1}{R+sL})\frac{L}{R} = \frac{Vs}{R}(\frac{1}{s} – \frac{1}{s+R/L}) \]

これをラプラス変換表に照らし合わせて、逆ラプラス変換を行います。結果、以下のようにIが求められます。

\[I = \frac{Vs}{R}(1 -e^{-\frac{R}{L}t}) \]

以上がラプラス変換を用いた解法となります。前項の「初等的解法」と同様の結果となりましたが、計算量や手順の比較では圧倒的にラプラス変換による解法の方が少ないことが分かります。
このように多数の手順を踏み、かつ微分方程式を解く必要がある初等的解法よりもラプラス変換を用いて、代数方程式を解いた方が過渡現象の解析に都合が良いことが確認できました。

以上がラプラス変換の基本と過渡現象解析にラプラス変換を用いる理由の解説になります。

お疲れさまでした!

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